東京地方裁判所 平成5年(ワ)2765号 判決 1994年1月20日
原告 城南信用金庫
右代表者代表理事 真壁実
右訴訟代理人弁護士 市来八郎
亀井時子
浅井通泰
被告 喜多茂
喜多ヨシ子
右両名訴訟代理人弁護士 花岡康博
村松靖夫
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して、二九三二万〇八一六円及びこれに対する平成五年二月九日から支払済みに至るまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
二 被告喜多茂は、原告に対し、一八三一万〇一六八円及びこれに対する平成五年二月九日から支払済みに至るまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項、第二項及び第四項に限り、仮に執行することができる。
理由
第一被告茂に対する貸金請求及び被告ヨシ子に対する保証請求について
一 事案の概要について
主位的請求原因(一)ないし(五)の事実については当事者間に争いがない。また、一番根抵当権は、原告の訴外会社に対する債権のみを被担保債権とするものであるから、これに基づく配当金は、民法四八九条(法定充当)の規定により、原告が同(六)で主張するように弁済充当されたものと認められる。
二 二番根抵当権による配当金の充当方法について
1 原告による充当の可否
原告は、二番根抵当権(いわゆる共用根抵当権)の配当金を、訴外会社の債務又は被告茂の債務のいずれに充当するかの選択権は、根抵当権者たる原告に委ねられている旨主張する。
しかしながら、この点については民事執行法その他の法令上何ら規定はないうえ、配当金の交付を受けた根抵当権者が原告主張のような選択権を法律上当然に有すると解すべき合理的な根拠は見当らない。なお、根抵当権設定契約書≪証拠省略≫第八条が根抵当権者である原告に充当についての冒頭掲記の選択権を認める旨を定めたものでないことは文言上明らかである。また、原告指摘の民法三九八条ノ一四の規定は、根抵当権の準共有の場合についてのものであり、根抵当権者が原告だけである本件に直ちに適用ないし準用されるものではない。
したがって、配当金の充当について原告に選択権があると認めることはできない。そうすると、右の選択権があることを前提とする原告の請求原因(七)(1)の主張は採用することができない。
2 配当金の充当方法
そこで、二番根抵当権に基づく配当金がどのように充当されるかを検討する。
本件の二番根抵当権は、原告(根抵当権者)が訴外会社及び被告茂に対して有する債権を、極度額二億円の範囲内で担保するものであり、①原告の訴外会社に対する債権を担保するための部分と、②原告の被告茂に対する債権を担保するための部分とから成る。そして、右①の部分と②の部分との優劣は、登記簿の記載から判明するようにはされているわけではない。この点につき、成立順序の早い債権から、あるいは弁済期の到来順序の早い債権から順に担保されるとすることは、根抵当権の性質にそぐわない。そうすると、公平の観念に照らし、右①及び②の各部分は同順位にあり、配当金は右部分の債権額に応じて按分的に充当されると解するのが相当である。
3 被告らの主張(法定充当)について
被告らは、二番根抵当権に基づく配当金は、民法四八九条(法定充当)の規定にしたがって、弁済充当されるべきであると主張する。
しかしながら、そもそも民法四八九条が適用になるのは、債務者が同一の債権者に対して同種の目的を有する数個の債務を負担する場合のように、債権者及び債務者が同一であることが前提となっているところ、本件において問題となっているのは、二番根抵当権に基づく配当金を、訴外会社を債務者とする債務(別紙≪省略≫(二)の1ないし4)と、被告茂を債務者とする債務(同5及び6)とに、どのような割合で配当するかということであり、民法四八九条の適用場面に該当しない。右のとおり、本件は、そもそも、いわゆる弁済充当が問題になる場面ではなく、被告らの右主張は、採用することができない。
三 配当金の充当の結果について
一番根抵当権に基づく配当金は一のとおりに充当され、次いで二番根抵当権に基づく配当金は二2のとおり按分して充当されることとなる。その結果は、次のとおりである(なお、別紙(三)の計算表参照。また、原告の請求原因1(七)(2)及び(3)の金額は、左記の結果と計算上わずかの額が一致しない。)。
本件において、二番根抵当権に基づく配当金の額は一億一六七七万七二二八円、一番根抵当権に基づく配当金の充当後における原告の訴外会社に対する残債権(元金)の合計額は六三二〇万一三三二円、原告の被告茂に対する債権(元利金及び損害金)の合計額は一億〇一二〇万六八八八円(別紙(二)5及び6の残元金、利息及び損害金の合計額)であるから、原告は、二番根抵当権に基づく配当金を受領したことにより、右債権(元利金等)額に応じて按分した額、すなわち訴外会社に対する債権については四四八九万一一六四円、被告茂に対する債権については七一八八万六〇六四円の弁済を受けたことになる。この場合において、被告茂の債務についてみると、弁済充当の規定に従い、別紙(二)5の損害金二六七万七七四九円、同6の損害金一一四二万四七三三円及び同6の利息二二三万四八四四円に充当される。次いで、同5及び6の元本全部を完済するには足りないところ、両者についての弁済の利益は同じであるから、弁済期の先に到来した同5の残元本一五六〇万円に対する充当を先にし、残配当金三九九四万八七三八円を同6の残元金に充当する。この結果、訴外会社の残元金は一八三一万〇一六八円、被告茂の残元金(別紙(二)6)は二九三二万〇八二四円となる。
そして、原告は、本件訴訟において、被告らに対し、八円の支払義務を免除しているから、被告茂の残元金は、二九三二万〇八一六円となる。
四 まとめ
したがって、原告の被告茂に対する貸金請求は、二九三二万〇八一六円及びこれに対する年一四パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
第二予備的請求について
予備的請求原因(一)ないし(三)の事実については、当事者間に争いがない。
そして、第一の三のとおり、二番抵当権による配当の結果、訴外会社の残元金は一八三一万〇一六八円となる。したがって、被告茂の連帯保証債務も、これと同額となる。
第三結論
よって、原告の主位的請求は、主債務者被告茂及び連帯保証人被告ヨシ子に対し、別紙(二)6の貸付債務の残元金二九三二万〇八一六円及びこれに対する配当金交付後である平成五年二月九日から支払済みに至るまで年一四パーセントの割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却するとともに、原告の予備的請求は、被告茂に別紙(二)1ないし4の債権の残元金一八三一万〇一六八円の連帯保証債務及びこれに対する右同期間について年一四パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡光民雄)